NDAの基礎知識。実例に学ぶ、秘密保持契約を結ぶとき失敗しないためのイロハ
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秘密保持契約(NDA; Non-disclosure agreement)。外部の方と仕事をする際、なんとなく取り交わしたことがある方も多いと思います。
NDAは本来とても重要な契約です。しかし、「中身をよく読まずに契約してしまった」「クライアントに求められるがまま契約を結んでしまった」という方は多いハズ。NDAの中には、悪意を持って組み込まれた、こちら側に一方的に不利な内容が紛れ込んでしまっているケースさえあります。中身をよく読まずに契約してしまうと、のちのち自分たちの首を絞めかねません。
この記事では、NDAの重要性とその要点を詳しく解説します。あわせて秘密保持契約に強いGVA法律事務所に聞いた、実際にNDAを結ばずトラブルに遭ってしまった事例・NDAを結んだ後に起こったトラブル事例とともに、NDA基本の様式が分かるテンプレートなど秘密保持契約のすべてをあますことなくご紹介。秘密保持契約の決定版です。
秘密保持契約(NDA)の基礎
NDAとは何か
秘密保持契約(以下、NDA)は、企業の機密情報を保護するための契約書で、守秘義務契約とも呼ばれます。契約の主な目的は2つ。
- 開示した情報を当該取引以外の目的に使用することを禁止するなど使用範囲を限定
- 他者への漏洩・開示を禁止し適正な管理を義務づける
企業の秘密情報を開示する側(開示側)が受け取る側(受領側)に義務や制約を課すため、当然両者のスタンスは真っ向から対立します。受領側は「秘密情報の幅を限定したい」「幅広い目的に利用したい」と考えているのに対し、開示側は、「秘密情報の幅を広く定義したい」、「利用目的は細かく明確に規定したい」と考え、NDA締結を求めます。
何よりもまず、「秘密情報」、「機密情報」の定義規定を確認した上、自身にどの程度の義務・責任が生じる契約なのかを見極めることが大切です。
NDAにおいては、たとえば以下のような項目について規定することが多いです。
<NDAで定めることの多いポイント>
- 秘密情報の範囲
- 秘密情報管理体制の構築義務の有無
- 秘密情報漏洩時の賠償責任
- 契約終了後の秘密情報記録媒体の破棄・返還義務
- 契約終了後の秘密保持期間の制定
- 秘密情報を取り扱う者の制限
NDAが取引相手から展開されるタイミング
NDAを結ぶタイミングは秘密情報を開示する前の取引交渉段階がほとんどです。取引の可能性を検討する際に、秘密情報の開示が必要となることが多いからです。
打ち合わせ中に話が盛り上がり、つい秘密情報を開示してしまうケースもあるでしょう。あるいは秘密情報であるために一定の情報の開示ができず、お互いに満足のいく検討ができない可能性も想定されます。そのため、ある程度、口頭での打ち合わせをした後、本格検討をする前にNDAを結ぶのが理想だといえます。
とはいえ、NDAを取り決める前に秘密情報を開示することもあるでしょう。NDAの規定の仕方によっては、契約締結時よりも前に開示した秘密情報についても保持義務を課すことができ>ため、契約時にきちんと確認しておきましょう。
また、取引が終了した場合にも、NDAの効力が続く場合が多いので注意が必要です。
NDAで具体的な「秘密情報」を記すのはまれ
NDAで「秘密情報」に該当するのはどういう情報でしょうか。
法律上に「秘密情報」の明確な定義はないため、当事者間で定義付けをする必要があります。とはいえ、契約書自体に秘密情報の具体的な項目を書くケースは多くありません。なぜなら、NDAを締結する時点ではどのような秘密情報を開示するかがはっきりせず、具体化することが難しいためです。
仮にその時点で想定される秘密とすべき情報をすべてリストアップしたとしても、その契約上の義務や誓約はリストに挙げた情報についてしか及ばないことになります。秘密情報そのものを書類に記すことで秘密情報(とその外延)が漏洩するリスクもあります。
秘密情報の定義には抽象的な文言が使われる
以上でみたように、NDA上では、抽象的な文言で秘密情報を定義することが多いです。
例えばメーカーのA社が、自社製品のプロモーションのために広告代理店のB社に依頼をするとします。A社はPRの効果を高めるために、製品情報や他社製品との比較データなどをB社に詳しく伝えます。
それらの情報の中には、競合他社などに知られてはいけない情報も多く含まれるでしょう。そのため、A社は、製品についてのあらゆる詳細情報を保護する必要があります。そこで、製品の構造についての情報を秘密情報としたい場合でも、「(A社)が(B社)に対して開示する当該製品に関する構造上、技術上、営業上の一切の情報は秘密情報に含まれるものとする」といった具合に、契約書上ではひとつひとつの情報をはっきり定義しません。
NDAで起こるトラブル
NDAをきちんと確認せずに結び多額の賠償金を支払った例
企業との取引の場には欠かせないNDA。NDAを精査せず契約を結んだ結果、トラブルになったケースは数多く存在します。たとえば、秘密情報の範囲を確定させなかったことで、情報受領側が多額の賠償金支払いを命じられた事例があります。
case2 口頭の情報、あるいは媒体に残らない情報が機密保持義務の対象になっているにも関わらず、安易に情報を受け取り、何を受け取ったかわからない状態で、契約違反の主張を受け、防御の対応に窮するA社(日本企業)がB社(米国企業)からある技術についてプレゼンテーションを受ける際に秘密保持契約にサインさせられ、プロジェクターを使って説明を受けた。 A社は、 検討後に結局その技術を導入しないことに決め、B社にその旨通知した。数か月後、A社は自社のまったく別の部署で開発された新製品を発売したところ、B社から、A社の新製品にはB社の技術が使われており、秘密保持契約に違反するとして、米国の裁判所で訴えられた。A社はB社からどんな情報の開示を受けたか不明で、十分な防御ができない状態であった。米国の裁判所においては1.ディスカバリー (証拠開示)2.陪審員の参加 3.懲罰的賠償・弁護士費用の敗訴者負担制度など、日本の裁判との違いがあり、 特に、陪審員参加による評決の予測が不確実である点から、A社は早期の和解に応じ和解金を支払わざるを得なかった。
引用:LexisNexisビジネスロー・ジャーナル2013年1月号(No.58) p.49
そのため、受領側(この例ではA社)は、受け取った秘密情報を特定できるようにしておき、余計な情報を受け取らないことが重要です。もしA社がNDAの締結段階で交渉をしていたら、このようなトラブルは防げたでしょう。
NDAにはリスクの大きい条文が入っていることもある
前述したトラブル事例のように、受領側にとって不利な条文が入っているケースも少なくありません。GVA法律事務所が100例以上のNDAを調査したところ、契約書内にリスクの大きい条文が含まれる可能性は低くないことが分かりました。
特にリスクが高く、かつ見逃しがちな条文は知的財産権や成果物の取扱と競業避止義務です。それぞれ解説していきます。
知的財産権や成果物の取扱
知的財産権や成果物の取扱が、NDAに規定されることがあります。
NDAの主な目的は、秘密情報の目的外利用および漏えいリスクのコントロールですが、開示される秘密情報に基づき、新たな発明や考案、創作がされる場合も将来想定されます。そのため、秘密情報に基づく新たな創作等による知的財産権についても、事前に規定がされるのです。
特に、この規定がない場合または不明確な場合、事後にトラブルになりえます。また、思いもしない形で、一方のみに有利となる規定を合意してしまうケースもまま見られるところです。
例えば、開発等を委託する際に、「簡単な開発だから」と開発委託契約を締結しないままNDAだけを締結し、NDAの先にある開発委託契約書をNDAで代替してしまうケースもあります。このような契約書では、NDAであるにもかかわらず、情報成果物等の知的財産権の帰属関係が規定されていることがあります。重大な事項となるため、注意しチェックする必要があります。
知的財産権とは
有形・無形の制作物を守る権利が知的財産権です。知的財産権は産業財産権と著作権からなります。その他、ノウハウや登録等を受けることのできる権利といったものも含めて規定されることも多いため、契約書上の「知的財産権」の定義についても注意する必要があります。
産業財産権は新しい技術やデザイン、ネーミングなどに与えられることが多く、特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つ権利が産業財産権として定められています。
著作権は、著作物の制作者が持つ権利を指します。著作権には最初に著作物を作った人だと証明し保護する著作者人格権と、制作者の利益を守るために、著作物を財産として認める著作財産権が含まれます。
トラブルになりやすい事例
著作権の所在を明確に定めていないと、納品後に発注者・制作者のどちらが保持するか?という問題が起こります。
通常、著作権は著作物を制作した側にあります。しかし、開発等の委託においては、発注側が著作権を保持したいと考える場合がほとんどです。発注側の意図を知るには、以下の項目をチェックしましょう。
- 著作者に帰属する著作権
- 翻訳権・翻案権
- 二次的著作物に関する原著作者の権利
これらの権利を「発注側に譲渡する」、これらの権利が「発注側に帰属する」と記されている場合、発注側が著作権を欲しがっていると読み取ることができます。加えて「著作者人格権を行使しない」という項目は、「名前を成果物の中に入れること」や「改変をしないこと」などの、制作者の主張を退ける効力があります。
また、納品した制作物それ自体にかかわる著作権のみならず、制作の過程において生じるあらゆる権利が発注側に帰属するという規定もみられるので、注意が必要です。
競業避止義務
秘密情報には、企業独自のノウハウや顧客情報が含まれるため、これらの情報を利用して同じ業界で別のビジネスをおこなうと、情報を開示した企業は損害や不利益を被ります。
そこで、情報を開示する側と競合する会社・組織への就職や、競合する企業の設立または取り引きなどを受領側が行うことを禁止する場合があります。これが競業避止義務です。
競業避止義務を検討せずに安易に契約を結んでしまうと、ビジネスの幅を狭めてしまう可能性があります。例えばA社とB社が競合する事業を営んでいる場合、A社と取り引きをすることでB社とは新たに取引ができなくなってしまうこともありえます。仕事を受ける立場としては、特別な事情がない限り同意をしないほうが良いでしょう。もしくは、NDAの前提である事業の検討をしている期間のみに競業避止義務の効力を限定するなど、極力義務の効力が限定的になるよう努力すべきです。
トラブルになりやすい事例
例えば、競業になりうる事業を商うA社とB社が、新規事業に向けた取引を検討するためにNDAを締結。B社が主に情報を受け取る立場にいたとして、契約書をきちんとチェックせずに、広範囲な競業避止義務を負ってしまったとします。
しかし実際のところ、その事業において競業避止義務に違反するような秘密情報の利用をしたか否かを判断するのは困難です。これは裏を返せば常に秘密情報の利用を疑われることになり、萎縮的効果すら生じさせます。
競業禁止義務の規定においては、ある一定条件を満たせば秘密情報を利用した事業行為であるとみなす旨の規定もありうるため、安易な締結は事業を停止する効果すら持ちうるのです。
締結時に注意すべきポイント
1. NDAを結ぶ目的が定められているか
NDAを結ぶ目的を定めるのは、NDAの効力が及ぶ範囲を確認するとともに、秘密情報を利用できる範囲を明らかにするためです。たとえば「新しい技術に関して共同開発が可能か否かの検討」のために情報を開示するはずが「新しい技術の開発検討」のためと明記されていた場合、受領側は自社で新しい技術開発の検討するときにも秘密情報を利用できる可能性が生じてきます。
情報を開示する側となった場合は、使用目的を細かに定めて受領側が秘密情報を扱える範囲を記しましょう。
2. 秘密情報が特定されているか
NDAを取り交わしたことで守られる秘密情報は、契約内で秘密情報として定義された情報のみ。それ以外の内容は秘密情報として扱われません。契約を取り交わす段階で、守りたい情報が義務の対象となるよう細かく、また明確に定義されているかどうか確かめましょう。
自身が情報を開示する際は、その情報が秘密情報にあたることをメールや書面に残しましょう。秘密情報の定義がある程度幅を持つ以上、当該情報が秘密情報に該当するかどうかにおいて双方に認識の食い違いが生まれるからです。後になって、「それは秘密情報でない」といって管理責任をめぐってトラブルになる事例もあります。
3. 秘密保持期間が定められているか
該当する取引が終了した後も、NDAの効力が続く契約を求められるケースもあります。前述した競業避止義務の有無と合わせて確認し、自社に不利な場合は交渉も検討しましょう。特に永久的な義務が定められている場合は注意が必要です。
NDAを結んでから注意したいこと
現場レベルの社員にも周知させる
企業でNDAを結ぶ際、契約書を見るのは限られた上層部の人間のみで、実際に秘密情報に触れる社員には周知されていないケースは少なくありません。
その結果、秘密情報が雑に扱われ、社内の不正使用や漏洩に繋がる危険性があります。契約担当者は遵守していたとしても、企業単位では秘密保持義務違反の責任を問われかねません。
社員全員に秘密保持の意識を持ってもらうためには、契約を結んだ人間や代理人がNDAの内容を噛み砕いて現場社員に説明する必要があります。そのうえで、社員に秘密を保持する誓約書を提出するのも有効な手段のひとつです。誓約書の内容は以下のような具合です。
コラム:誓約書文例
(プロジェクト名)において(社名)から提供される秘密情報を守ります。もし秘密情報を開示・漏洩させたり、本プロジェクト以外の目的で使用した場合は会社から懲戒処分や損害賠償請求を受ける可能性があることを承知します。
あわせて社内で情報管理責任者を定めて明確な規定を設けるなど、組織全体で秘密情報保持漏洩を防ぐ体制を作ることも必要です。
一方、情報を開示する側の場合は相手の企業の社員が自社に対し誓約書を結ぶことを義務付ける一文をNDAのなかに含ませるとよいでしょう。
NDAテンプレート
「自社に合ったNDA」を作成している企業は多い
リスクの大きい条文例にもあるように、自社に有利な契約を結ぶため、独自のNDAを用意している企業は少なくありません。標準的なNDAの型を知り、自身に不利な契約を結ばないよう心がけましょう。
おわりに
これまで、NDAでチェックすべき多くのポイントを紹介していきました。しかし実際の契約時に条文をひとつひとつ細かくチェックするのは骨が折れる作業ですし、必要以上に時間を割いてしまうと事業スピードやプロジェクトの停滞にも繋がってしまいます。
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