【初めてのNDA】秘密保持契約の有効期間の延長や自動更新。どこに注意すべき?
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秘密保持契約(以下「NDA」)には、有効期間に関する条項が記載されています。しかし、NDAの中で「有効期間は〇年間」と定められていても、付帯条項として「契約期間満了後も〇年間は存続」「〇か月前までに解約の意思表示がないときは、本契約は更に1年間自動的に更新」などと記載され、契約条項の有効期間が延長されるケースも珍しくありません。
本記事では、NDAに有効期間の延長や自動更新の規定が存在するときに注意すべきポイントについて解説します。
NDAにおける有効期間の基本的な考え方の違い
NDAでは、情報を開示される側(受領当事者)と、情報を開示する側(開示当事者)とでは、秘密情報の保護に対する期待が異なります。そのため、NDAにおける有効期間に対する基本的なスタンスも、開示当事者と受領当事者ではおのずと違ってきます。
開示当事者側の考え方
開示当事者としては、秘密情報の流出・漏洩による影響を避けるため、「秘密情報はできるだけ長期間秘密にしておきたい」と考えるものです。そのため、受領当事者に何年にもわたり秘密に管理する義務を負わせる内容をNDAに盛り込む傾向が見られます。
受領当事者の考え方
逆に、受領当事者は、「できるだけ秘密保持義務を負う期間を短くしたい」と考えます。なぜなら、秘密情報を適正に管理する手間暇やコストがかかる上に、何年もたってから秘密情報が外部へ流出・漏洩した場合に、秘密保持義務違反を主張され、損害賠償問題に発展しかねないためです。
契約の有効期間と存続条項の関係
NDAの契約期間が終了すれば、NDAの効力そのものも失われてしまいます。そうなると、受領当事者は自由に秘密情報を開示等できるようになりますが、秘密情報が公表されたり、自己利用されることによって少なからず開示当事者は影響を受けることになるでしょう。
稀にですが、大手企業とスタートアップ・フリーランスとの間で締結されるNDAでは、有効期間を短期間に設定することで、NDAの有効期間経過後に、スタートアップ等から情報を受領した大企業側が、契約交渉中に取得した情報を用いて類似サービスを展開しようとする例が見受けられます。そのような事態を防ぐために、NDAには「存続条項」と呼ばれる条項が盛り込まれているのです。
存続条項とは
存続条項とは、NDA全体の効力は終了させつつも、NDAで定められた情報漏洩・開示禁止義務や管理義務など一部の効力を残存させるために規定されるものです。この条項を置くことにより、契約期間が終了しても開示当事者は受領当事者に引き続き秘密情報を管理させることができるようになります。
どのような義務を何年存続させるのか
NDAに存続条項を入れるときは、どのような義務を何年存続させるべきかを検討しましょう。たとえば、「NDAの有効期間は1年」「秘密情報の開示禁止・目的外使用禁止義務のみ契約終了後2年は有効」などとする方法があります。存続条項で定められる存続期間は、実務上「無期限に存続」「3年を上回る期間存続(長期)」「1年以上3年未満の期間存続(中期)」「1年未満の期間存続(短期)」の4つのパターンにおよそ分かれることが多いと言えるでしょう。ただし、契約書の修正等をするときには、存続条項の条数の部分で修正漏れが発生することがあるので注意が必要です。
たとえば、第3条に「目的外使用の禁止」、第5条に「差止請求」の条項があり、有効期間について「第3条と第5条のみ、契約期間終了後も3年間は有効とする」という規定を設けた場合を考えてみましょう。このとき、第2条と第3条の間に条項をひとつ追加した場合、追加した条項が新たな第3条となり、「第3条と第5条」が「目的外使用の禁止」「差止請求」の条項とは異なる条項のことを指すようになってしまいます。そのため、「第3条(目的外使用の禁止)と第5条(差止請求)のみ…」と括弧書きで条項の内容を書いておくとミスの防止になるでしょう。
また、存続条項は「第2条3項」といったように項数レベルで指定される場合も多いので、条数のみならず、項数を変更する場合も注意が必要です。
NDAの有効期間は何年にすればよいのか
NDAの有効期間の定め方については、法律上の決まりはありません。そのため、有効期間は契約当事者同士で自由に決めることができます。では、NDAの有効期間は何年とするのが適当なのでしょうか。
有効期間は提供する情報の性質による
有効期間を何年と定めるかについては、当該秘密情報がどの程度の価値を持つか、どれくらいの期間その価値を保持するかにより判断されます。技術情報などは一般的に2~3年と定められることが多いですが、契約期間は1年であとは自動更新、というケースも見られます。ただし、開示当事者がNDA締結時点では想定できなかった情報を開示することになる可能性もあるため、有効期間の設定は契約当事者双方が慎重に行うことが必要です。
有効期限を無期限にするケースも
顧客情報、製品ノウハウなどの重要な事柄は有効期間を無期限とするケースがあります。しかし、顧客情報等の個人情報にあたるものはともかく、NDAを無期限とすることは現実的でないと考えられることも多いので、契約自体は終了させながらも、最低限受領当事者に守ってもらいたい秘密情報のみ存続条項として規定するケースも考えられます。
有効期間の延長や自動更新を行うときのポイント
NDAに有効期間の延長や自動更新に関する規定を設けるときには、以下のようなポイントに注意することが必要です。
中途解約できてしまう規定が入っていないか
NDAに中途解約を認める規定や些細な義務違反でも契約解除を認める規定が入っている場合には、慎重にNDAの有効期間や自動更新を設定した意味がなくなりかねません。有効期間は、秘密情報の確実な保護が期待できる期間として重要な意味を持つため、有効期間を短縮しかねない規定が入っている場合には、削除することも検討すべきでしょう。
公序良俗違反で無効となることも
また、必要以上に受領当事者を長期間NDAによって拘束すると、受領当事者の経済活動の自由を妨げると判断されることがあります。すると、延長された期間や自動更新の規定が「公序良俗に反し無効」とされる可能性も考えられるでしょう。
開示当事者側からすれば、わざわざ有効期間を設けることは秘密情報の流出・漏洩のリスクを高める原因にもなるため、決して歓迎されるものではありません。しかし、だからと言って必要以上に長期にわたって受領当事者をNDAに拘束すれば、受領当事者は相手方から受け取った秘密情報をそれだけの期間保管する義務が生じます。その間に受領当事者がそれらの書類や記録を紛失したり、倒産や廃業に追い込まれて倒産・廃業後に管理責任の所在が不明になったりする可能性もゼロではないでしょう。
さらに、もしNDAに競業避止義務条項が設けられていた場合、将来的に開示当事者と同一または類似のビジネスを行いたいと考えてもそれが実現できず、機会損失のため将来生じたであろう利益が得られなくなってしまうことも考えられます。必要性や合理性の観点から、長期にわたり受領当事者をNDAでしばりつけることが公序良俗に反すると判断される可能性もあります。
受領当事者にとって、長期間秘密情報の管理を強いられることは、大きな負担を伴います。そのため、できる限り有効期間は短くしてもらう、あるいは存続条項を置くとしてもできる限り負担は軽くしてもらうなどの交渉が必要になるでしょう。