フリーランスのNDA(秘密保持契約)締結のコツ。トラブル事例から学ぶ、押さえておきたい3つのポイント
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この記事でわかること
- フリーランスの方がつい軽視しがちなNDAに起因したトラブル事例をご紹介しています。
- NDAを締結する際に最低限押さえておくべき3つのポイントを知ることができます。
この数年、フリーランスで働く人の数が増えています。専業フリーランス形態の方はもちろん、最近は働き方改革推進を背景に、正社員として企業で働きながら副業をする方も増えており、従来の枠組みだけではない働き方も含めると、この流れはまだまだ続きそうです。
本記事では、フリーランスの方にとって、難しいけど無視できない、取引開始時に必要になることが多いNDA(秘密保持契約)をテーマに、実際のトラブル事例をベースに最低限押さえておくべきポイントをご紹介します。「確かにこんなことありそうだな」「知人から聞いたことある」というような事例もあると思いますのでぜひ参考にしてみてください。
はじめに
フリーランスや副業のような「個人の裁量が大きい」働き方が浸透することに比例して必要になってくるのが、一人ひとりの確実なビジネス遂行スキルです。見積もり、契約、受注処理、仕事の実行、納品、請求・支払い処理、経理など、会社に所属しているときには経験しないステップまで含めて、自分でこなせることが必要になります。
最近は、経理や請求関連など、これら周辺作業を支援するSaaSやリーズナブルな専門家のサービスも増えてきましたが、まだまだ知識レベルでは自分自身で身につけておく必要があります。そんな周辺スキルの中でも重要度が高いのが、「法務や契約書に関するスキル」です。
働く人の独立性や新規取引の頻度が高くなるほど、仕事をする相手との取引条件を定めた契約書の重要度は増す傾向があります。グループ会社内や安定した取引先との間であれば、今までの前例や同じ文化を共有することによる”意思疎通のしやすさ”などがありますが、フリーランスの増加に伴い、新規のビジネスが生まれることを考慮すると、契約書を締結する機会は今後ますます増えてくることでしょう。
契約トラブルの際の解決方法についても、近年はシステム開発等の案件でも高額な賠償がニュースになることがあります。これらも、契約内容に基づいた解決を指向する傾向が強くなっていることが、背景になっている可能性もあります。
そもそもNDA(秘密保持契約)ってどんな契約?
NDAというのは英語の「Non-disclosure agreement」の略称で、日本語では「秘密保持契約」と呼ばれます。
取引を行う際に必要となる営業上の秘密やデータ、顧客情報といった秘密情報の取り扱いや双方の秘密保持義務、開示された秘密情報の利用目的などについて定めた契約です。
同様の契約書として、「機密保持契約」「守秘義務契約」などがありますが、フリーランスが企業と取引の際に締結するものとしては「秘密保持契約」「機密保持契約」が大半になります。
秘密保持契約は、法律で定められる守秘義務とは違い締結者間の契約上の義務で、違反した場合には損害賠償や差止め請求について記載されていることがほとんどです。また明確な違反に該当しなくても、当事者感の信頼関係にも大きく影響する可能性があり、決して軽視できない契約です。
フリーランスにとってNDA(秘密保持契約)はどんな意味がある?
もっとも多いのは取引を検討する段階で、必要な情報のやりとりを安心して行うために締結する場合です。
契約の内容や金額、納期などを検討する際に、とくに仕事を発注する側からは一定の情報の提供が必要です。そのため検討後に契約に至らない場合でも情報の取り扱いについて定める必要があります。
「念のため」程度の感覚で締結する場合もあれば、まだ世に出る前の新製品に関わる情報だったり、競合状況がシビアな環境など、案件によって秘密情報の重要性はまちまちです。
またフリーランスはその就業形態の特性上、さまざまな企業と取引する可能性があります。
丁寧にNDAをチェックすることで、発注元からみれば、競合関係にある企業との取引時の情報公開を制限したり、フリーランス側からみれば、自らが提供する業務の内容や取引先選定の自由度を将来にわたって担保するという効果もあります。
一見、ライトな契約という印象もありますが、とくにフリーランスにとってのNDAは将来の死活問題につながることもある重要な契約といえます。
フリーランスのNDA(秘密保持契約)にまつわるトラブル事例
フリーランスといえば、ほとんどの場合1名もしくは数名での業務が一般的です。たいていは契約内容をチェックする専門家がいないので、リスク箇所のチェックが不十分なまま締結してしまうケースもあります。
ここではよくあるトラブル事例を3つ紹介します。
(1)成果物に秘密情報が含まれており他の仕事に支障が出てしまった
成果物を構成する要素に「受領した秘密情報」が含まれている認識がなかったたため、高額の賠償金の支払いを迫られてしまうケースです。
フリーランス側は「自力で作成した」と考えている成果物。そのままの内容で他の会社に提供することはさすがにありえませんが、そこで得たノウハウや業界知識などが含まれることは避けられない場合もあります。この場合には、どの情報が秘密情報に含まれるかを十分に確認し、必要に応じて秘密情報の範囲に制限をかけることが必要です。
成果物に秘密情報が含まれると判断された場合、将来の使用が制限されてしまうので、成果物を変更して作成し直したり、最悪のケースでは損害賠償につながる可能性もあります。これらの事態は、何が秘密情報に含まれるのかが曖昧なまま契約を締結してしまったことに原因があります。そのため、締結前に秘密情報の範囲については明確にしておきましょう。
(2)知的財産権を明確に定めておらず権利行使に制限が出てしまった
こちらは(1)にも近いですが、成果物における「著作権の所在」を明確に決めていないことによるトラブルです。
対象としては、成果物の著作権の帰属、著作者人格権の不行使、成果物内のクレジット表記義務の有無などがあります。発注者側ができるだけ多くの権利を保持しておきたい意図で過大に権利が設定される場合があり、それが理由で将来のフリーランス側の権利が制限されてしまうというトラブルです。
成果物の著作権等については、わざわざNDAに記載し、その帰属を決定する必要が乏しいので、後に締結する取引契約に委ねてしまってよいと思います。
(3)競業避止義務の範囲や期間を大きく設定してしまい、将来の事業に支障が出た
過去に行った仕事と競業してしまうことを防ぐ「競業避止」は、NDAの中では一般的ではないものの、こっそりと記載されていることがある条項です。
通常は、妥当な期間において、過去の取引先と競業してしまう事業を自ら立ち上げたり、競合関係にある企業からの仕事を請けることが制限されます。
競業避止義務の設定自体は、発注側の権利維持のためにも必要な場合があること自体は否定できませんが、この条項を受け入れた場合、特にトラブルになってしまうのは競業避止の期間や対象範囲が過度に大きいケースです。
規定のされ方にもよりますが、こうなってしまうと、秘密情報に含まれないソフトスキルとしてせっかく身につけたノウハウや知見を横展開したり、特定領域におけるスキルをブラッシュアップするチャンスすら、逃してしまう可能性があります。
フリーランスのNDA(秘密保持契約)締結時に押さえておきたい3つのポイント
では、これらトラブルを防ぎ、将来の営業活動に支障をきたさないために、NDA締結時に必ず確認しておきたいポイントを3つ、ご紹介します。
(1)NDA締結の目的を明らかにする
まず何を目的としてNDAを締結するのかを必ず明らかにしましょう。
ありがちなのが、営業活動や商談を開始するタイミングで「とりあえずNDA」となってしまうケースです。「協業可能性の検討」「発注内容や見積もり額の算出」「コンペ参加のための情報提供」など、NDA締結の目的を明らかにすることで、後述する対象範囲やその使用・流用禁止の範囲、禁止期間に対しても、合理的に、根拠をもって交渉できます。
(2)秘密保持の対象や範囲を特定する
前もって厳密な定義は難しいため、抽象的に表現されることも多いのですが、秘密保持の対象物や範囲はできるだけ特定しましょう。
何が対象になるかに加え、何が対象にならないか、も同じくらい重要です。すでに公知になっていること、契約前からフリーランス側でも知っていたこと、提供される情報の媒体(書面や口頭など)など、秘密情報になる対象を特定し、関係ない情報はできるだけ対象外にしておきましょう。
(3)秘密保持期間を限定する
秘密保持期間として、検討期間やプロジェクト実行期間が対象になることは当然ですが、それらが終了した以降も一定期間は秘密保持義務が発生することもあります。
終了後に秘密保持義務が発生すること自体は問題ではありませんが、保持期間が不自然なほど長かったり、場合によっては半永久的な秘密保持義務を求める記載になっているケースもあるので注意しましょう(特にNDAの自動更新条項は、実質的に無期限の秘密保持義務を負うことになりかねず要注意です)。フリーランスのように、ターゲットに特化して自分の強みを磨きながらクオリティや効率をアップする働き方では、特にリスクとなりえますので必ず確認しておきましょう。
おわりに
以上、とくにフリーランスのNDA(秘密保持契約)において確認しておきたいポイントをご紹介しました。
契約締結の際は、最低限これらはチェックできるようにしておくことをおすすめします。
著:有賀 之和(GVA NDAチェック事業責任者)