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コンテンツ制作契約を締結する際に気をつけるべきポイントとトラブル回避のイロハ

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新しい事業を展開しようと考えている場合、あるいはマーケティング戦略や広告宣伝を考えている場合、「コンテンツ」の制作が有効な手段となることが多いと思います。制作したコンテンツは当初意図した用途にとどまらず別の用途にも利用でき、そのコンテンツを利用してビジネスの幅を広げられる場面も少なくありません。

しかし、制作したコンテンツの利用については、その利用期間や用途との関係で発注者と受注者との間でトラブルになることもあります。というのも、コンテンツの利用の余地が大きいということは、それだけコンテンツの利用に制限を加えられたときにその制限を乗り越えてしまいやすいことを意味するからです。それはつまり、コンテンツ制作に関する契約の内容としては、単にコンテンツの制作を頼み、頼んだ通りのコンテンツが納品されて終わりではないということでもあります。

そこで、この記事ではコンテンツ制作契約を締結するにあたり注意すべきポイントをご紹介致します。

まずは次のような事例をご覧ください。

事例

①A社は、B社が開催するイベントで用いる映像コンテンツの制作を受注した。

②A社は映像コンテンツの業界で評判の高い企業であったため、B社のイベントは、大きな反響を呼び、大成功となった。

③B社は大きな反響を得られたことから、イベントで使用したコンテンツについてグッズ展開し、大きな収益をあげた。

④A社は、イベント利用限定であるという認識でコンテンツを制作していたため、B社がグッズ展開をしていることを聞いて驚いた。

⑤A社は限定のイベントに用いるコンテンツということで、それに応じた報酬額でコンテンツを制作していた。

⑥A社は、グッズ販売で得た収益について自らの貢献度に応じた分配を求めたが、B社から応じてはもらえなかった。

このような事例を回避するために、A社としては、コンテンツ制作契約の締結時点でどういった点に注意を払えばよかったのでしょうか。

※本記事は2020年4月の民法改正施行前に書かれものであり、旧法の用語法等が用いられている箇所があります。

コンテンツ制作契約の基礎

コンテンツ制作契約とは何か

コンテンツ制作契約とは、文字通りコンテンツの制作業務を委託することを内容とする旨の契約のことをいいます。ここでいう「コンテンツ」は、映像や3D画像、音楽など多種多様なものが考えられます。このようなコンテンツの中には、定期的に制作する必要のあるコンテンツや一度制作すれば足りるコンテンツなどが含まれます。たとえば、定期的に制作する原稿やイラストから一度制作することでさしあたり大丈夫なウェブサイトまで様々です。

制作の対象となりうるコンテンツの幅が広いため、コンテンツ制作契約の締結においては、発注者と受注者との間でどのようなコンテンツを制作し、それをどのように利用するのかについて共通認識を抱いた上で契約を締結することが重要です。一言にコンテンツといって多種多様なものがあるため、コンテンツについての共通認識が固まっていないと、どのようなコンテンツを制作するのか、そのコンテンツのどの部分が重要であるのか、よくわからなくなってしまうからです。

発注者と受注者が契約前に十分に協議した上で、制作すべきコンテンツの内容を定める必要があります。

コンテンツ制作契約ではコンテンツ制作の目的も重要

契約締結前にどういったコンテンツを制作するのか具体的に詰めておくという視点が重要であることをお話しましたが、そもそも何故そのコンテンツが必要なのかというコンテンツ制作の目的も重要です。なぜなら、契約当事者が当初予定していた方法を離れてそのコンテンツを利用してしまうこともあり得るからです。

コンテンツは、最初の事例で紹介したように二次的な用途での利用も十分に考えられるところであり、また、コンテンツであれば複製も容易です。したがって、基本的には、コンテンツの用途の広さに応じて、その制作の報酬額が決まることになります。コンテンツ制作の目的や用途を定めて、はじめて適切な報酬額がわかるのです。多用途で用いることが前提のコンテンツであれば、期待できる収益も高いため、それに応じて制作報酬が高くなったり、報酬の算定基準が変わるのが一般的な整理と思われます。そのため、コンテンツ制作契約を締結するにあたっては、あらかじめどういった目的でそのコンテンツを制作するのかについて、しっかりと協議した上、共通理解を深めてから契約締結に向けて動いていくことが重要です。

そして、目的を定めた後は、コンテンツの制作後に発注者がコンテンツを使い回して色々なビジネスに転用してもよいのかどうかなどについてもしっかりと検討の上、契約書に記載するのが望ましいといえます。

コンテンツ制作契約の種類

制作するコンテンツを定めた後は、そのコンテンツに合わせて契約の形態を設計することになります。

たとえば、継続的に制作を依頼することが前提となっているコンテンツ制作契約については、大まかな契約内容を「基本契約書」という形にまとめて締結した上で、具体的なコンテンツの仕様や納期、金額について基本契約書を前提とした「個別契約書」を作成することによって対応することが考えられます。このように2種類の契約書を設ける意味は、頻繁に行われるコンテンツ制作の度に、1から契約内容を設定するのが大変だからです。

逆に、1度きりで完結するコンテンツ制作においては、「基本契約書」と「個別契約書」の2種類に分ける必要はありません。

コンテンツ制作契約で注意すべきポイント

さて、これまでコンテンツ制作契約がどういったものなのかをお伝えしてきましたが、結局のところ、契約書の内容として何を考える必要があるのかについて不安をお持ちの方も多いと思います。そこで、ここからは、コンテンツ制作の内容と目的を定めた後、どのような条項に気を付けて契約書を作成すべきなのかについて説明していきます。

コンテンツの仕様

前述のように、コンテンツ制作においては、どういったコンテンツを制作するかという部分、すなわち「仕様」が重要となるため、仕様書を作成するなどし、コンテンツの仕様を契約の内容として具体的に決めておく必要があります。

仕様をきちんと定めておかないと、発注者が制作してほしいと考えるコンテンツと、受注者が制作しようと考えているコンテンツとの間にずれが生まれてしまい、発注したコンテンツと全く違うものが制作されているからという理由で発注者が受注者に対して報酬を支払わないなど、大きなトラブルの原因となってしまいます。また、受注者としても、仕様があいまいなまま制作の受注をしたりすると、仕様を決めるための作業や、仕様が変わることによる制作のやり直しが生まれたりと、実際の制作作業で本来予定していた以上に工数がかかってしまい、当初設定していた報酬と実際に要した工数との関係で釣り合いがとれなくなる可能性もあります。

このように、コンテンツ制作契約においては、発注者と受注者との間で解釈のずれが生じない程度に具体的な内容でその仕様を定めることが必要です。もし、定めた仕様の内容が複雑で膨大になるような場合は、別紙として、契約書に添付する形で整理するのが良いと思われます。

保証(知財非侵害について)

制作されたコンテンツに他人の権利が含まれている場合、そのままコンテンツを利用すると他人から権利侵害の主張がなされ、差止請求や損害賠償請求を受けてしまう可能性があります。また、継続的な利用が前提のコンテンツについてはこのような事態となると、今後コンテンツの利用を継続できなくなってしまうこともあるため、特に発注者としては、このような事態を避ける必要があります。

そこで、他人の著作権などを流用してコンテンツの制作をしていないことにつき、受注者が保証する条項が必要となります。この条項を、著作権等非侵害の保証条項といいます。保証条項に受注者が違反した場合は発注者に対して損害賠償責任を負うよう定めることにより、可能な限り受注者が他人の権利を利用したコンテンツを制作しないよう手当することが、発注者としては重要となります。

もっとも、この条項を安易に設定するのはコンテンツ制作の可能性を大きく狭めてしまいます。たとえばX社がY社からコンテンツ制作契約を受注するにあたり、コンテンツに他人の知的財産権などの権利が一切含まれていないことの保証を求める条項が設定されていることを考えます。この場合、受注会社であるX社としては自らが制作するコンテンツが一切他人の権利を侵害していないことの保証を求められるわけですが、他人の権利を侵害するか、その可能性があるかについて隅から隅まで調べた上で、誰の権利も侵害していないコンテンツを制作するというのはとても困難です。

このような条項が設定されてしまうと、受注者としては、他人の権利を侵害しないよう膨大な調査コストを払わなければいけなくなり、その調査コストがあるため本来行うべきコンテンツの制作が停滞することもありえます。これは、コンテンツの質にも直結するため、発注者としても、保証に関する条項を設定したがために、本来期待したコンテンツを制作してもらえないといった事態になることも考えられます。

そのため、どこまでの範囲について、そのレベルで保証してもらうのかについて考える必要があります。

この保証条項については、「すべての権利を侵害しないことを保証する」といった厳しいもののみでなく、「知る限り保証する」や「知り得る限り保証する」いった緩やかな条項が定められることもあります。両者の違いは、以下の通りです。

  • 「知る限り」は受注者がコンテンツを制作するに際、他人の権利を侵害していることについて認識していたかを基準とする
  • 「知り得る限り」は、受注者が権利侵害を認識していなくても、受注者が一般的な注意を払えば権利侵害となることに気付けたような場合を含む

この2つはたった2文字の違いですが、効果が大きく変化するため、契約を締結する場合はどのような記載となっているかについて注意を払う必要があります。

このように、保証の範囲を決めるにあたっては、制作するコンテンツの性質や受注者側の調査能力など色々な事情を加味する必要がありますが、いずれにしても契約当事者にとって現実的に履行可能なラインがどの辺りにあるのかを考えるのが重要です。

知的財産

制作したコンテンツについては、著作権などの権利が誰に属するものなのかについて明らかにする必要があります。この場合におけるコンテンツの権利帰属については、コンテンツの対価として委託報酬を支払うこととの関係で、発注者に帰属させるのが一般的とも思われがちですが、必ずしもそうとは限らず、受注者にコンテンツに関する権利を帰属させるケースもあることに注意する必要があります。

コンテンツの権利を発注者と受注者のどちらに帰属させるか

コンテンツは、制作目的と離れた別の目的での二次利用が可能なことも多く、複製も容易であることから、受注者としては制作したコンテンツを本来予定していた目的以外で利用できないようにする必要があります。そのために、受注者としては、コンテンツに関する権利関係を自らに帰属させたうえで、コンテンツ制作契約を締結する際に協議した制作目的の範囲内でのみ、発注者によるコンテンツの利用を許諾するような内容にすることが考えられます。

このような、いわばコンテンツの利用に関するライセンスを発注者に与える形式で契約を締結していれば、受注者は発注者が契約の目的以外の用途でコンテンツを利用している場合に差止請求や損害賠償請求などの対応を取りやすくなります。

また、受注者に権利が帰属していると、発注者がコンテンツを模倣したものや配色を変更したようなものを、自らのコンテンツとして利用している場合にも対応することが可能です。自分が制作したコンテンツの使用について強い関心を寄せる受注者としては、コンテンツに関する自らの権利を守るために、契約段階でコンテンツの権利帰属について受注者となるよう交渉することが望ましいと思われます。

一方で、発注者としては委託報酬を払う以上、制作されたコンテンツの権利関係を自らに帰属させたいと考えるのが自然です。そのため、発注者がコンテンツを必要とする目的と今後のコンテンツ利用の可能性に照らして、コンテンツが自らに帰属しないとどのような不都合が生じるのかについて考える必要があると思われます。元々、限定イベントでのみ利用する目的で制作を発注したコンテンツである場合は、そのイベント以外でコンテンツを利用できなかったとしても、ビジネス上の損害は少ないため、むしろコンテンツの権利は受注者に帰属させたうえで、その分支払うべき委託報酬を小さくするような交渉を行うことも考えられます。

逆に、そのコンテンツを様々な用途で展開する予定があるのであれば、コンテンツの権利を自らに帰属させることはマストとなるため、その旨を受注者に伝えて権利帰属についての交渉を行うことが考えられます。

著作権の中には他人に譲渡できない固有の権利もあるので注意

最終的にコンテンツの権利関係を発注者と受注者のいずれとするかは、契約において定めることができます。しかし、法的な整理をすると、著作権はコンテンツなどを制作した者が最初取得します。実際にコンテンツを具体的に制作するのは受注者であることから、まずは著作者(著作権法2条1項2号)である受注者が制作したコンテンツについての著作権を当初取得します。

その後、契約で定める場合はコンテンツ制作契約の報酬と引き換えに、コンテンツの著作権が発注者に移転するというのが、基本的な権利移転の流れとなります。

しかし、著作権法においては、著作者から移転させることのできない固有の権利があり、それを著作者人格権(著作権法17条1項参照)といいます。

簡単にいうと、「制作者のこだわりや思い入れを守るために、コンテンツなど制作物の著作権を譲り渡した後も制作者に残り続ける権利」が著作者人格権です。この著作者人格権に基づいて、制作者は「作ったものを勝手に改変するな」といったことをいうことができます。つまり、発注者からすると、利用の可能性が狭まることになります。そこで発注者としては、納品されたコンテンツを自由に使えるようにするため、「受注者は発注者に対して著作者人格権については行使しない」と定めることが一般的です。

なお、著作権は色々な権利の束のようなもので、著作権のうち翻案権と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法27条、28条)は、著作権を譲渡すると契約条項に記載するだけでは当然には移転しないとされています(著作権法61条2項参照。「特掲」を要する。)。そのため、「著作権(著作権27条及び28条の権利も含む。)を譲渡する。」などとしてかっこ書きを忘れないように付け加える必要があります。これを忘れてしまうと、発注者がコンテンツをアレンジした形で別のコンテンツを制作、使用とする場合に、受注者から都度許諾を得なければならなくなりますし、アレンジしたコンテンツに受注者も権利を有することになってしまいます。

また、仮に著作者人格権の不行使について定める場合であっても、コンテンツ制作に関する発注者と受注者双方の意図をしっかり反映できているかの確認が必要です。たとえば、制作したコンテンツの利用範囲を広範に定める場合、受注者としては自分の制作したコンテンツが多くの人の目に留まることを考え、制作したのが自分であることを知らせたいという気持ちが強く働くこともあります。

その場合は著作者人格権のうち氏名表示権(著作権法19条。コンテンツの著作者が誰なのかを表示させることのできる権利)だけを行使できるよう定めておくということも考えられます。コンテンツは制作して終わりのものではなく、その後どのようにコンテンツを利用するかによって関係者の思惑や利害が変化するのが特徴です。そのため、この記事では終始指摘している話ではありますが、コンテンツ利用の目的やコンテンツの用途の広さに応じて契約条項を定めるのが重要です。

委託報酬、支払時期

コンテンツ制作に関する委託報酬について、その計算方法及び支払時期についてしっかり定めておく必要があります。無根拠にコンテンツ制作の委託報酬が定めてしまっている場合、発注者と受注者との間で何かトラブルが生じた際に、そのトラブルを深化させる大きな要因となります。基本的に、コンテンツ制作に必要な工数を明示した上で、それに基づいた委託報酬設計を行うのが基本であると思われます。

支払時期については、可能な限り具体的な日付を設定するほうが契約当事者にとって望ましいと思われます。たとえば、「コンテンツが納品されてから〇日以内」といった定め方であれば、契約当事者双方がいつ委託報酬を支払うのかについて確認できるため、トラブル防止という点で安心です。

まとめ

大きく分けて4点について、コンテンツ制作に関する契約で気を付けるべきポイントを紹介いたしました。コンテンツ制作契約においては、その後どのようにコンテンツを利用するのかについても踏まえて、コンテンツの権利関係を定めなければならないため、契約当事者の間でこまめに協議を重ねていくことが重要です。

その協議の過程で得られた共通認識をもとに、この記事にかかれている内容を踏まえた契約書を作成すれば、コンテンツ制作契約に関するトラブルの多くを予防することができます。

この記事を参考に、今後のコンテンツビジネスをより発展させていただければ幸いです。

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